十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

腰据えて精進落とし。

おばあちゃんに乾杯

おばあちゃんのお葬式は昼の1時からはじまった。1時間もしないくらいで式が終わり、バスに乗り込んでみんなで斎場へ向かう。私たち3姉妹は横一列に並び、秋の新ドラマの話題で盛り上がる。さっきまでびーびー泣いてたのにこうも切り替われるのはどうかと思いながら秋の晴天にほっとする。
斎場を後にし、いったん会館に戻る。私の記憶ではこの骨上げまでの待つ時間に精進落としをして食事をいただいてたように思うのだが、今回はコンビニのサンドイッチやおにぎり、お菓子でいったん休憩。お骨が戻ったら初七日法要をして近くの叔母の家に戻り、夜になってから腰据えて精進落としをするというプランらしい。これはどう考えても時間を気にせず本気で飲む態勢。さすがの私もここまで予測していなかった。悔しい。
すべてを終えておばあちゃんが亡くなるまでいた叔母の家にみんなで引き上げる。リビングにテーブルを並べて総勢20名を超すメンバーで精進落としという名の宴会がスタート。叔母が小さくなったおばあちゃんのお骨に「ほな、これからにぎやかにやらしてもらうで」と声をかけ、なぜか乾杯。もう後は、ビールに焼酎、妹が買ってきたワインを次々に空け、いつもと変わらない盛り上がりへとなだれこむ。
途中、うちの母親と叔母の姉妹がすくっと立ち上がり、「突然ですけど、お母ちゃんの思い出の歌を歌わしてもらいます」といい、泣きながら歌い出す。それはまるで由紀さおり姉妹の再来で、赤とんぼでも歌い出すんちゃうかの勢い。その後アルバムを広げておじいとおばあの若い頃を振り返り、なぜか腕相撲大会がはじまって場はヒートアップしていった。
こんな風に飲みながらぎゃーぎゃーと盛り上がってるときに、おばあちゃんはいっつも何にも言わんとみんなの様子を見ていた。笑ってるわけでも怒ってるわけでもなく、ただ淡々とそこに居た。そこにちんとおばあちゃんが座っているような気持ちになって、心地いい酔いに浸っていった。