十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

12月がやってきた。

「あんたもう来たん?」と少し突き放すように言うと「仕方ないでしょう。順番ですから」とくしゃくしゃになった「12」と書かれたメモを私に渡し、「あーあ待った待った」とソファに足を広げてドンと居座っている。そう、こいつは12月。一年の最後を締めくくるならもっと知的でいてほしいのに、なんやこいつ、かなり図々しくて理屈っぽい。「あたしもね、長いこと待たされる割にはじまったらはじまったでほら、忙しいんですよ。師走と書かれりゃ走らなならん、クリスマスに天皇誕生日、大掃除、忘れちゃいけないお歳暮。皆さんちゃっちゃとやってくださればいいのに、なかなかやらないでしょ?なのにみんなあたしのせいにするんですよ。お前が来るのが早いとね。こっちはきちんと11カ月間待ってたというのにね」とお茶をすすりながら愚痴る12月。

 

 

確かにこいつの言うことも一理あると思う。だいたいやらなならんことが12月に多すぎることが問題。しかも仕事が立て込んで時間がとれない状況になり、みんな知らず知らず焦ってしまう。結果12月のせいにしてしまう。「でしよ?だからあたしは言ってんですよ。最近、お歳暮なんて早い時期から注文受け付けて、しかも割り引いてくれてるじゃないですか。なんで利用しないかなあ。やっとかないのかなあ。ひとつ済ませておくだけで、気が楽になるってものでしょう?」あのな、言わせてもらうわ12月。9月や10月にお歳暮の段取りする気になるか?おせちの手配しようと思うか?そんなことはそんなときにやったらあかんのや。「だからあ、そのあたりの仕事を9月や10月に任せてもらえば、あたしももう少しラクになるってなもんなんですよ。知ってますか、9月なんてなーんにもしてないのに『ああ涼しくなってきた。9月はええねえ』と褒められるばかり。あたしは寒いわ忙しいわと愚痴られるばかり。同じお給金でやってられませんよ、まったくね」とソファに寝転ぶ12月。いっそこのまま寝かせてしまうか?

 

 

「なあ12月。この1カ月間をあんたと仲ようするにはどないしたらええんかな?あたしらだってさ、あんたと上手く付き合いたいと思ってる。せやけど大人になればなるほどあんたとは上手いこといかんようになるねん。なあ、どないしたらいい?」とちょっと甘えた声でビールを注ぎながら12月に寄り添ってみる。「まあね、方法が無いわけじゃないですけどね」何かな?私らに出来ることかな?「あたしら暦は、与えられた日数をまっとうするしか生きる方法はありません。この暦を増やすことも減らすこともできないんですわ」そらそうやな。そんなことしてたらカレンダー業界が成り立たんようになるね。「だから皆さんのスピードを上げてもらうしかないんですよ。例えば大掃除なら一人でやるのをふたりでする。効果の高い洗剤を使う。面倒なことはプロの業者に頼る。すると余裕が生まれて12月のことを少しは好きになってもらえるでしょう。そっちもね、考えてもらわないと。根性論でなんとかなる世の中じゃないんですから。。。。。」

 

 

わかってる。そんなことはわかってるんや12月。あの手この手を尽くしても、それでもいっぱいいっぱいになるんが12月なんや。なんであんたは他の月とこんなに違うんかな。昔はあんなにあんたのこと好きやったのに残念や。せめてそのビールに入れた睡眠薬でしばらく眠っといてもらおうか。ちょっと時間ちょうだい。さあゆっくりおやすみ。