十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

もうアボカドは買わない。

「かーちゃん見て見て、ほら根が出てきたんよ♪」と親父はうれしそうに私に水に浸けた球根を差し出す。「ほらこっち。この縦長の球根くんはなかなか根を出さんことで有名なんよ。そやのにほら出てきてるやろ。あんたこれすごいことなんやでー」と胸を張る親父。うん、きっとそれはすごいことなんやろう。けど、「ほんでこっちの球根くんはこんなに根が伸びてるねん。もう安心やな。春になったらふたつとも土に植えたろうっと。きっと大きくなるね♪」また植えるんかい。また鉢増えるんかい。

 

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これが親父が珍しいと言う縦長の球根。これね、アボカドです。スーパーで売ってるアメリカ産やらの普通のアボカドを食べた後にタネを残し、こうしてせっせと水耕栽培してるというワケ。「この縦長のアボカドは根が出ないことで有名やねん。だから一般的にアボカド農家も扱ってないらしいんよ。僕が育てて根を出したってことは世界的にもすごいことなんよ」ってホンマかいな。ほんだらなんでこいつがスーパーで普通に売られてるねん。

 

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こっちがもうひとつのアボカドでさっきのと形が違うのがよくわかります。下にピローンと伸びているのがいわゆる「根」。こうして爪楊枝で刺して半分ほど水に浸けているとパッカリとお尻が割れてきて根が出てくるという仕組み。もちろん根が出ないままお陀仏になったアボカドくんもこれまで何個もいたわけです。「僕が毎日愛情をかけて育ててるから難しいトンガリタイプも根を出せるようになってるの」らしいけどおっさんヒマなだけちゃうんか。

 

で。こんな風に親父が丹精込めて育てたアボカドの球根は土に植えられると一気に成長していきます。茎を伸ばし、葉を広げ、大きくなって我が家の狭いベランダを占領していきます。「これさ、どうすんの?どんな結末が待ってんの。なあ」と聞くと、「アホやなあかーちゃんは。決まってるやん、アボカドの実がそのうちいっぱいなって、アボカド長者になるんよ。ガハハハハ」

 

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わたしは心に決めました。「もうアボカドは買わない」。スーパーでどんなに安くなっていても。どんなに良質なアボカドが出ていても。二度と再び買いません。