十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

マタコさんが作ってくれた時間。

「ほんであんたは行かんでええの」ととーちゃんが言う。「へ?私が?いやいや無理やん。千葉やで」「ふーん、そうなん」ととーちゃんは手を止めていた晩ご飯の支度をはじめた。

私の高校一年生からの友人ペッス(加賀やきアテンダーズの会長やで)のお母さんマタコさん(本名ちゃうで)が亡くなったとペッスから連絡があったのは今週の水曜日。年明けに膵臓がんが見つかり、闘病されていることや最近あまり良くないことは聞いてたもののやはり驚き、ショックやった。友人のお母さん、といっても、私たちはよく高校時代に放課後や土曜日にお互いの家を行き来して遊んでいたので関わりが多い。ペッスの家に集まって彼女の部屋で安全地帯なんかの音楽をかけながらギャーギャーしていたら、マタコさんが飲み物を持ってひょっこりあらわれたり、大人になってからも同じ堺に住む者同士うちの妹たちとも交流があった。ペッスのような明るい元気なタイプではなく、小さくて可愛らしい女性で、ワコールの下着の販売員として長らく勤め、猫とひっそりと暮らすそんなところも素敵やった。

 


木曜日がお通夜、金曜日のお昼にお葬式で、横浜にいるもっさん(同じ同級生やで)はお通夜にいくと言う。関西の加賀やきメンバーと連絡をとり、みんなでお花を供えさせてもらうよう手配もした。そこにとーちゃんの「あんたは行かんでええの」である。実は金曜日に東京出張で2件の仕事が終わるのは16時の予定。この足でお葬式が終わった後にお骨がもどるペッス弟の家に行ったら?せめてお参りだけでもさせてもらえる?「とーちゃん、泊まりになるで」と言うと「お寿司代たんまり置いていってや」と親父ニヤリ。せやな。いってくるわ。多分もう行ける機会ないからな。

 


ペッス弟家に戻った祭壇のマタコさんの遺影は私が知ってる当時のマタコそのものでやはり愛らしい。お線香を立てて手を合わせ「お疲れさまでした。ペッスを産んでくれてありがとうございます」と伝える。ペッス家と弟家のふたつのファミリーはそれぞれ子供たちがしっかり育っていて、マタコさんはもう大丈夫やと安心しはったんやろうなあと思う。「ほんでな。棺に入るときに私マタコに化粧したげてん。ほんだら褒められてさあ。むっくり起きて話し出しそうやって。やるやろ」とペッスはうれしそうに話す。それ最後の最高の親孝行やんか。

 

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ペッスファミリーに最寄駅まで送ってもらい、私は大手町へ向かった。宿の近くまで友人のヨーコ&ガロ夫婦が来てくれて、夜の時間をいっしょに過ごしてくれることになっていた。突然の誘いにもかかわらず快諾してくれるこの気持ちがうれしい。「ねーさんにアーバンなこの風景を見てもらいたいの!」と二件目にビルの夜景が間近に迫るテラス席のあるお店に連れていってもらう。風が吹いて気持ちいい。この2人とならいつまでも話し込んで飲んでいられる。私は幸せもんやとつくづく思う。マタコさんが作ってくれたこの特別な時間を私は心から楽しみ、酔いしれた。

 

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