野口さんと会って。
野口さんは少しはにかみながら私たちを迎えてくれた。「あ、初めまして。日本語は話せます」と言う。さすがに日本に来て15年も経ってるんだから話せて当たり前だろう。でもたまに出身のドイツなまりが出てくるようで「ま、ちょっと傷んでますけふぉ」なちょっと抜けた言葉になるのは目をつぶろう。でもまあ、初対面の好感度は高かった。
「私の前のオーナーは、そりゃあもう私を愛してくれました。でもオーナーが海外赴任になりましてね、泣く泣く私を手放すことを決めたのです。あの時はとても悲しかったぁ。私も一緒についていく覚悟でした。でもオーナーが決めたこと、私は従うことしかできません。それで一人、日本に残ることにしたのでふ」そうか、野口さん、いろいろあったんやねえ。「ですからわたくし、新しいオーナーがお越しになるのをずっと待ちわびておりましふぁ。それが今日、かなったわけでございまふ」
あまり泣き落としに騙されてはいけない。ちょっと野口さんに乗せてもらおう。
ばばばばばばばば…そんなに軽くはないけれど、ドイツらしい這うような重さのあるライド感。私は決して嫌いじゃない。「は、女性でなかなか私の良さをわかってくださる方は少なくて。うれしゅうございまふ」と彼は言う。一周走って私たちは野口さんとこれからを過ごすことに決めた。
契約の段取りをしている間、野口さんは炎天下のなかじーっと待っていた。帰りしな「それではこれからよろしくお願いしまふ。万全にしておきますので」と新しい生活に期待を寄せている雰囲気。納車のときまでしばらくお別れだが、これからは私たちの生活の良きパートナーになってくれることだろう。野口さん、パンダの後は頼むで。