十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

それぞれの土曜日。

女1は始発の電車で空港へ移動し、羽田に降り立った。朝ごはんを食べ、ビールを飲み、今日1日のこれからの出来事に胸をときめかす。好きな人たちとのうれしいことばかりの週末。びっしりの予定は楽しみの数。気がかりなのは慣れない土地で夜にきちんとホテルにたどり着けるか。まあ眠らないように気をつければいいか、と思い席を立つ。

 

女2は成田空港でため息をついていた。2分遅れただけで間に合わなかった関空行きの便。空港の窓口で確認したところどうやら新幹線での移動の方がいいらしい。気持ちを切り替え、成田を後に東京駅を目指す。

 

そのころ男1はスマホでタクシーを手配していた。スムーズに予約できる便利さを感じ入りながら荷物をかばんに詰め込み出発の準備をする。これから数日間は北海道をめぐり、大好きな食と馬に出会うきままな旅。まずは羽田空港で何を食べようかと思いながらタクシーを待つ。

 

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午後を過ぎて、男2は大阪駅ビルにある店のカウンターでビールを飲んでいた。14時からはリッツカールトンでの小宴がある。その前に軽く飲んでおく通称0次会はいつものこと。SNSを覗くとリッツで一緒に飲む仲間の夫婦がこの近くで飲んでるらしい。場所を確認してさっそく移動。なんだこの夫婦、男は日本酒を飲んでやがる。しかも正装で行くと言ってたのにアロハじゃないか。苦笑いをしながらビールを頼む。2杯目のビールは少し苦い。

 

女3は東京駅からのぞみに乗っていた。大阪で夜に行われるふぐ料理を味わう会に参加するのが今回の目的。SNSを見ていると同じふぐの会に参加する女2が新幹線で移動することになったことを知る。あ、知り合いの大阪メンバーは昼からリッツにいるのか。そうか、間に合えばみんなに会いたい、けれどチェックインもしておきたい。どうしようかな、行けるかな・・・

 

女1はほろりと泣いていた。自分を歓迎してくれた友人家族たちのもてなしにうれしくて泣いていた。大好きな「木綿のハンカチーフ」のみんなでの熱唱にいつもの切なさとは違う喜びの涙だった。ほんとうにこの家族はいつお会いしても素晴らしい。やさしくてあたたかい。何度ありがとうと言っても足らない。

 

女4はパソコンに向かっていた。今夜は友人の妹である女1が東京に来るのでいつもの友人たちと集まってガンボ料理を食べに行く。ああ楽しみだ。あのガンボスープはたまらなく美味しいし、何より女1たちと会えるのは私にとって最高の時間。しかしたまった仕事を片付けておかなければならない。さあ仕事をしよう、と思いつつもついSNSを覗いてしまう。集中しなければと思うほど、そわそわと気持ちが浮つく。

 

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女5はビールにしようかワインにしようか考えていた。ここはリッツのオープンスペース。去年もこの90分飲み放題プランに来たが、去年よりもフードが充実していて実に満足だ。これで4500円なら文句はない。500円足してあと30分居させてほしいくらいだ。さっきまで隣にいる女6が最近新しい猫を家に招いたのでその話を詳しく聞いていた。先住猫との距離が近づいているようで少し安心する。しかし女6はとてもピュアでかわいくやさしい。良い子だなあといつも思う。あ、男2がもうすぐ時間ですよと言っている。この後はみんな我が家にくるのだろうか?

 

女3は梅田に着いた。リッツカールトンはここからまだ西にあるらしい。まだみんなはいるだろうか?会えなかったらそのままホテルにチェックインしに行こう。

 

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男2は会計を済ませてみんなに声をかける。まだ女7が席について食べている。もう時間だと言っているのに。「だってこれ食べとかないとさー」と女7は言う。やれやれ、この人の食いしん坊ぶりはいつものことだ。なんせ胃袋がコスモだからな。ようやく席を立った女7も集まり、みんなでエレベーターを待つ。さあこの後はどうしようか。女5と男3夫婦の家になだれこむかな?タクシーで行った方が便利だろうか。

 

女3はエレベーターを待っていた。確か5階でやっているのだったな。ぼんやりと待っていたらエレベーターの扉が開いた。ぞろぞろと団体客が出てくる。ふと視線を上げると「女3?」と言う声が聞こえた。あ、女7だ!みんなもいる!「みんなここにいるって見たから会えるかなと思って」と言うと「すごい確率ですね」と男2が言う。確かに奇跡だ。来て良かった。

 

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男3はカウンターの隅から人数分のハイボールを注文した。東京から来た女3がこれからふぐの会に行くので隙間の時間に0次会で初めて来たこの店にまた戻ってきたのだ。しかしこの店は実にいい。料理には少しこだわりがあり、日本酒は香川のものだけという絞り込み方も悪くない。注文ごとに大根をおろすこのなめこおろしにも品がある。さあ女3、食べなさい。鴨ロースもなかなか美味いよと言うとカウンターの向こうで妻と男2が「2回目なのにすでに常連ぶってる」と言っているようだ。いいんだよ、2回目になれば立派な常連だ。酒飲みとはそういうものだ。

 

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犬は眠かった。みんながやってきたので少し騒いだが昔のようにもうできない。女6の膝に乗ってみんなの話を聞いている。あれから女1は女4たちと会ってどんな話をして笑い転げたのだろうか。男1はどうやらいやらしいくらいの北海道グルメに舌鼓をうっているようだ。腹立たしい。女2と3は今頃ふぐ料理を堪能しているだろう。最高クラスのふぐらしいからかなり美味いに決まってる。さあこのメンバーはまだ飲むようだ。女5が湯豆腐を作っている。土曜日の夜は長い。