十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

犬という重し。

あれから1週間が経ちました。あの日は近所の友人が来てくれて一緒に見送ってくれました。たくさんの人に励ましの言葉をいただき、うちの会社のコたちからも哀悼の言葉をたくさんかけてもらいました。わざわざお花を送ってくれた友だちもいて感謝しきりです。皆さんありがとうございました。私は月曜日からいつも通り会社に行きましたが、なんとも言えない脱力感と喪失感でろくに仕事になりませんでした。とーちゃんも同じで食欲もなく、ぼんやり過ごしたそうです。「こんなに寂しいもんなんか」とつぶやいていました。

 

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身体の中にぽっかりと大きな穴があいて、そこに重い蓋が被さってるような感じです。大きな穴からはため息しか出てきません。全部頭ではわかっています。私たちと眠りながら苦しむこともなく辛い思いをせず、これ以上ない最高の亡くなり方であったこと、病気でなく寿命の電池が切れてしまったこと、いつかはこういう日が来るということ。ただ私たちは、いつかどうしようにもない病気になって看病をしながらその日が来る覚悟をするもんだと思い込んでいました。そういう準備期間があるものだと思い込んでいました。なのであまりの突然のことに、気持ちがついていかない、事実を受け止め切れない状況になっていました。

 

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こういうとき、わたしは自分に語りかけます。「後悔はあるか?」「何が辛い?」「どうすれば良かった?」「何か出来ることはあったか?」これらに自分で答えを探し、重くのしかかる蓋を少しずつ開けていきます。私たちは今、何をすべきなのだろうか、どこに気持ちのやり場を求めるべきなのだろうかと考えました。そしてとーちゃんに言いました。「とりあえず、今まで出来てなかったことをやろうよ。やれなかったことをやろうよ。とーちゃん、今週、夜に2人で出かけよう。行くのは江戸幸さんや」。とーちゃんは「そうやな」と笑いました。

 

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留守番させたら一晩中吠えて近所からクレームが出た子犬時代から、私たちは犬を置いて出かけることをやめました。ペットサロンの開いている昼間に出かけるか、犬を連れていけるお店にだけ時間を気にせず出かけることができました。行きたい夜の飲み会があれば、どちらかだけが行くようにしていました。犬という重しが私たちなりの暮らし方を工夫させてきました。でももうそういう縛りはありません。最初に行くのにふさわしいお店、行きたいのは江戸幸さんでした。大将と奥さんは私たちの変化に気づいてくださり、「そら寂しいなあ」と声をかけてくださいました。2人で夜の江戸幸さんに行くのは初めてのことで、久しぶりのホッピーも大将のお料理もとても美味しくて滲みました。「こういうことをしていこう」「せやな」「日帰りで行かれへんかったところも行こう」「せやな」「旅行も行こう」「うん」「でも金はない」と笑いました。

 

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とーちゃんは前から行きたいと行っていたスポーツジム体験にも行ってきました。2つのジムをハシゴして今月どちらかに入会するそうです。身体を動かして気持ちも動かす作戦です。こうして新しい生活をはじめていこうと思っています。

 

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4月18日の四十九日が過ぎたら、少しずつ家のものを片付けていくつもりです。今はお仏壇のお骨にお水と残ったご飯を毎日あげ、線香を立てて「おはよう」「行ってくるね」「ただいま」と声をかけています。写真の中のサイゾーは何も言わずに大人しく私たちを見守ってくれています。