十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

ラスボス、ボブとの戦い。

私の風邪はあれから治まることなく、地味に地味に長引いて私を苦しめ続けました。本当はお父さんの納骨の話を書くつもりでしたが、この風邪の顛末を備忘録としてまとめておきます。てかほんまブログが病気ネタばっかりになってきたでしかし!

 

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たくさんもらった薬を飲んでいればこのなんてことない風邪は次第に治っていくイメージしかなかった。しかしそうはならず、喉の痛みが治りかけたところで左耳に違和感を感じ始めた。ボワボワして水が詰まってるようで、聞こえるけれども聞こえにくい。違和感が続くので仕方なく私は仕事を抜けて耳鼻咽喉科に向かった。「あー風邪からきてる中耳炎ですねこれは」「はあ」「薬で治らなければ膿みを出す手術になるけど、まずは薬で様子見ましょう」と神経質そうな先生は言う。抗生物質をもらい、内科と耳鼻咽喉科で出された薬漬けで治ることを信じた。

 

鼻炎用、痛み止め、抗生物質、胃薬、咳止めと複数の薬を時間帯によって飲み分けるが、それほど劇的には良くならない。数日経って耳のボワボワは治ってきたけど、なぜかまた喉が腫れてきている。こんな私に付き合って親父までゲホゲホしだして咳き込むように。いろんな症状が治ってはまた始まる地獄のループやないか。何かおかしい。ひきはじめから1カ月も経つのと言うのに熱が出ないからというてもしつこすぎる。

 

そんなことを感じはじめた頃に、新たな異変が私を襲った。人生55年で経験したことのない地獄がやってきた。(ここからはシモの話になるので苦手な人はここまでにしてね)

 

ベンが出ない。そこにいるのに出ないのである。これは単なる便秘でないことはいち早く悟った。もよおしているのに踏ん張っても出ない。なんやこれは。お前は何者か。名乗なぬのなら名前をつけてやろう。まるでお前は身体のすべてに隆々とした筋肉をもつ若々しさあふれるボブ。さあボブ、私の身体からさっさと消え失せろ。大阪市の下水へと流されてしまえばいい。そう願いながら何度も何度もトイレで戦うものの、屈強なボブは俄然として外へ出る気配を見せない。「あんたもう30分もトイレにおったでえ」と親父に言われるが仕方ないのだ。それほどボブが手強いのだ。その日の深夜もボブが騒ぐので何度かトイレに通ったけれど敗北しかなかった。私の腹いや身体はこのままボブに蝕まれてしまうのではないか。永遠にボブと共存することすら考えてしまうほど私は弱気になった。腹に効く新しい薬を入れたら何とかなるだろうか。いやもう薬はこりごり。ここは自力でなんとかしなければ。

 

翌朝も不快感MAXの中何度も「ボブ、ゲラウト!ボブ、ゲラウト!」と私はファイトした。ボブを抹殺すれば長引く不調が治ることをこのときの私は確信していた。1カ月ものときをかけて私の身体で成長し、増幅した風邪のウイルスの化身がボブであることもわかっていた。ウイルスの最終形態、ラスボス、それがこのボブなのだ。喉で鼻で耳で私を苦しめ続けたウイルスがボブとなり、最後の抗いを見せている。負けるわけにはいかない。勝たなければいけない。追い出さなければいけない。私は最後の力を振り絞る。ボブ、ゲラウトぉぉぉ!!!

 

私はボブに勝利した。息が上がり、肩を大きく上下させ、小さくガッツポーズをしなから「あばよボブ」とつぶやいた。ようやくあいつらとの戦いに決着がついた。私に、我が家にようやく平和がやってくる。静かに眠ることができる。冷や汗がにじむ額を拭いながら、私はトイレの扉を静かに閉じた。

 

そしていま、親父は多少ゲホゲホしているものの、私は健康な身体を取り戻してきている。物理的に追い出して勝利した実感は、私に無敵なまでの強さを与えたようにも感じる。しかしただひとつ、誤算があった。薬を絶つやいなやアズスーンアズ、花粉症が思い出したようにやってきたのだ。「忘れてもろたら困るなあ。あんたの持病ですがな。いや薬飲んではるから抑え込まれてましたけどね、ほれ、はなみずくしゃみ目の痒み、今年は最強でっしゃろ。これから盛大出していきまっせー!」とはしゃいでいる。私はまだたくさん残る鼻炎の薬を確認し、いつ飲もうかと考えはじめている。