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十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

あいつと私。

ある日、あいつはひょっこりと私のところにやってきた。しばらく居座るつもりのようだったけれど、私があまりいい顔をしないものだから「じゃあ出て行くよ」と割とあっさりとすぐに姿を消した。「それがいい」と私も思ったし、居られるといろいろなところに支障が出てしまう。さっさと消えたあいつに未練などない。これで終わり。と、この件についてはきれいに終わったかに見えた。少なくとも先週の火曜日までは。

 

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突然だった。あいつがまた私のところに戻ってきたのだ。なんの前触れもなく、連絡もなく。まるで少し長い出張から帰ってきただけのように。「何しに来たんよ。やめてよ。帰って!」と何度言っても聞いてないふりをする。いや本当にあいつの耳には届いてないのだろう。私はあきらめた。今は黙ってそっとこのままにしておく方がいいのかもしれない。あいつを受け入れながらもいつでもあいつを追い出せるようにとこっそりタイミングを見計らう。黙って。静かに。しかしあいつはそんな私に安心したかのように寝そべり、大きなあくびをして、やりたい放題にするばかり。次第にあいつのふるまいがどんどんエスカレートして手に負えなくなっていった。追い出したい、でもできない。私はとうとう疲れ果ててしまった。大事な仕事もキャンセルせざるを得ない状況になってしまった。あいつがいるだけで、たったそれだけで、私は自由を奪われた。

 

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呆然と過ごす時間が続き、私は理路整然と考える力を失っていった。あいつはますます横柄になり、力を蓄え、それとともに私はどんどん疲弊していった。決心が生まれたのは久しぶりにシャワーを浴びた後だった。少し理性を取り戻した頭で今なら行けると直感し、無防備に眠りかけたあいつの目を盗んでこっそりと出かけた。身体も頭もふらつくが今を逃したらもう機会はない。私はあいつが最も嫌う最終手段に出た。

 

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白い上衣と眼鏡が染み付いたGが言うには、今はあいつが目立たないように仕掛けていくしか方法がないらしい。「まあ対処法に過ぎませんが」と苦い顔をしてGは呟く。私には他の選択肢がないしそれに従うしか術はない。「わかりました。努力します」とGの指図を守ることにした。あいつを遠ざけるために。あいつをここから追い出すために。私の自由を取り戻すために。

 

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あれから6日。Gの狙いが的中して私はあいつの目をくらまし、いつものように会社に行き、出張にも出られる自由を手に入れた。しかしあいつはまだここにいる。何かの折に「俺はまだおるんやぞ。気を抜くな」と私を脅かす。咳き込むたびに。キリキリとした頭痛に悩まされる度に。ウイルスというしつこいあいつがまだここにいることを、私はまだ思い知らされている。