十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

張り込む土曜日。

通いはじめてかれこれ20年にはなる九条の酒場。随分昔のブログに書いたと思いますが、当時九条に日本酒の旨い居酒屋があるらしいと何かで見て、その店に行く前にたまたま立ち寄ったのがこのおかあちゃんの酒場でした。当時はご夫婦で切り盛りされて、常連しかもツワモノの常連しか来ないような佇まい。ここで少し飲んで、目当ての店に向かったらまあ胸糞悪いことばっかりですぐに店を出た。「とーちゃん、このままじゃ帰られへん。さっきのおかあちゃんのとこ寄ろう!」となって20年以上、月に2回は顔を出すようになりました。

 

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おとうちゃんが亡くなっても、コロナで一時休業しても、バイトさんがいろいろ変わってものれんを出し続けたおかあちゃんの店へ、先月いつものようにとーちゃんと行ったら張り紙が出ていた。書いてあるのは「当分の間休業します」とだけ。何があったんやろうか。おかあちゃんは80代で糖尿もち、血圧高めと年齢的にもいろいろあるので何があってもおかしくない。ざわざわする。どうなってるのか知りたい。そこでおかあちゃん以外で唯一バイトの女の子Aちゃんの連絡先を知ってることに気づいてショートメッセージを送ってみた。すると近所の病院に入院してるけど元気にしてる、心配しなくていいという返事。最悪の状況ではないことがわかり、ふたりで胸を撫で下ろす。けれどしばらくして私たちにとある疑問がわいてきた。「あの店のツワモノ常連たちはいったいどこで飲んでいるのだろうか?」

 

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20年も通っていると常連さんも変化していく。いつの間にか見なくなった人、亡くなってしまった人、新しく会うようになった人。私たちが行くのはだいたい土曜日の早い時間なので、このタイミングでよく会う人たちと話し込むことも多かった。おじさんの身の上、仕事のこと、家族のこと。たわいもないこと。お酒を飲みながらの彼らとの話が私は大好きで、仕事では決して得られないたくさんのことを学ばせてもらった。(そして飲んでるので多くのことを忘れてもいる)。あの常連たちは土曜の昼にどこで飲んでるんやろう。あんなに話し込んだのに連絡先も正しい名前もわからないのでとーちゃんとふたりでモヤモヤするばかり。

 

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モヤモヤしていても仕方ないので私たちは土曜の昼にいつものように九条に向かった。おかあちゃんの店の並びの寿司居酒屋で寿司ランチを食べ、いつも寄っていたスーパーで買い物をして帰ろうとしたら、ふと角のたこ焼き屋に目が止まった。そういやあの常連のトラ吉たちはここで(中で飲んで食べられる)デーゲームを見てたとか言うてたな、と思い出し、私たちはたこ焼き屋で張ることにした。そう常連たちに会いたいがための張り込み。寿司でお腹はいっぱいやのにたこ焼きとチューハイでチラチラと外を見ながら「らしい人」を探す。が、そうは簡単に会えず収穫なし。絶対このあたりで飲んでるはずやのに。そう遠くは行ってないはずやのに。常連たちよいずこへ。

 

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それからも何度も九条に行っては寿司、買い物、たこ焼きという流れでとーちゃんと2人で張り込みを続けるものの常連の誰1人として会えない。先週の土曜日にも九条で寿司の後買い物を済ませ、「今日は張り込みはもういいか。お腹いっぱいやし、どうせ」と言いながらたこ焼き屋の中をちらっと見ると女性がカウンターにいる。あれ?あの人、前に話した人に似ているかも?「とーちゃん、あの人常連の人に似てるけど違うかもしれん。けど確かめたいから入るでかまへんな?」と言いつつ中へ。彼女も気づいてくれてお互い「あーー!っ!」となる。やった!ようやく常連に会えたー!張り込み成功!

 


Kちゃんと呼ばれる彼女は幸いにも事情通で、いろんなことを私たちに教えてくれた。おかあちゃんの状況も常連たちの動向も。誰さんはよく⚪︎⚪︎で、誰さんは△△にいるみたいよ、とどこもここから近い店。やっぱりこのあたりで飲んでるんやん!「よっしゃ、今からその⚪︎⚪︎に行ってみよう。誰かに会えるかもしれん」と滅多と出さない機敏な行動力で向かうことに。

 

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その店のオーナーはおかあちゃんと深く通じている人で、立ち飲みながらなかなか居心地良い雰囲気。Kちゃんも後から来てくれて3人で飲んでいると、Kちゃんが「あっ来た」と言う。見ると土曜の昼の常連おっちゃんがそこに。思わず駆け寄り抱きつくわたし。驚くおっさん。「会いたかったんやで、もう!」と泣き出すわたし。戸惑うおっさん。

 


結局この日、この店で3人の常連親父と会うことができた。KちゃんとはLINEを、おっさんたちとは電話番号を交換して、連絡を取れるようにもした。おかあちゃんの容態が良くなったわけでもないのに、なんかものすごく安心して「良かったなあ、とーちゃん」と何回言うたことか。これからは九条の⚪︎⚪︎や△△の飲み屋で、常連たちと肩を並べて飲みながらおかあちゃんの復活と店の再開を待ちたいと思います。