もっさん(49歳女性)は電車に乗って得意先のもとへ向かっていた。今日は気の張らないお客様なので足元は黒いパンストに歩きやすいパンプス。ふと足元を見ると、黒のパンストにぽつりと小さな穴が空いている。「どうしようか。電線は無いし目立つほどじゃないので履きかえるのはめんどくさい。けれど気づいてしまった以上気になるし」。そこでもっさんはひらめいた。ボールペンを取り出し、小さな穴を塗りつぶした。ツイッターにそのことを書いたら「いいね」がいつも以上に寄せられた。「なんや、みんなやってるんや」と安堵した。
夕方になってもっさんは驚いた。あれほど完璧に塗りつぶした黒い丸がどこかに行っている。いや違う。パンストがずれて穴の位置と合わなくなっていたのだ。「しもた。そないなるか。また黒い丸書くか。しかしこんなことをしててもキリがないしな」。パンストを買い換えればよかったとも思うが今になってはもう意味がない。もっさんはあきらめた。
深夜。もっさんがボールペンでパンストの穴を塗りつぶしてから12時間が経過した頃、ツイッターでは彼女の友人たちがざわつきはじめていた。
ボールペンで塗った時点のツイートに友人のぷくこが
「広めにな。ズレるでな。12時間も過ぎてるからもう遅いけどな」
と書けばもっさんが
「そのアドバイス、早めに欲しかったわー。ズレたわーww」と素直に返答。
そこでわたし
「足に何個丸塗ったんか知りたいわw」と返信すると
「ズレるたんびな。北斗七星出来るで」とぷくこ。もうわたし、もっさんの足に点々とマークされた北斗七星を想像してくくく。
するとうちの妹のしっかり者のクローバーが「そもそもボールペンでせんと眉墨ですりゃあ北斗七星になろうがズレようが気にせんと塗りまくれてよかったのにねー」とまさかのボールペン否定。そんなアイデアがあるとは。
すると新たにメトロが入ってきて「大きい丸描いたらストッキングの黒とかぶってカラスの的みたいになるんちゃうか」と展開。カラスのマト?と思っていたらすかさずぷくこが
「それデカすぎ。黄色と赤も入れて塗りたくなるやんか」とコメントし、
画像アップ。これわざわざいりますか?もう腹決壊。深夜にひとりで肩と腹を震わせました。
その頃いつものようにソファでうたた寝していたもっさんは、まさか自分が塗りつぶしたパンストの穴がいつの間にか鳥よけのバルーンになっていることなどつゆ知らずスースーと眠り、朝になってこの顛末に肩を震わせたのでした。
教訓。
黒のパンストに空いた穴を塗りつぶすなら広めに、眉墨で。ただし滲んで鳥よけのマトにならないように最善の注意を。敢えて色を重ねてマトにしてしまうという思い切った楽しみ方をしてみるのも一興。とはいえ何よりも新しいパンストに履きかえるのが一番。