十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

アキとの再会。

仕事で北海道に行ってきた。一泊二日の出張で少し自由になれる時間があり、ふらりと札幌の町を歩いていたらぽんぽんと肩を叩かれた。落とし物でもしたかなとふりむくと、そこにアキがいた。「久しぶり」と微笑むアキは意外にもスポーティな服装でうっすらと汗をかいている。「ちょっと走ってたの。ほら最近太っちゃって」と笑い、「1年ぶりね。お茶でもどう?」「少しなら大丈夫」と煉瓦造りのカフェに入った。

 


「まさか札幌で会えるとは思わなかったわ。何?仕事?」とアキはミルクティーを飲みながら首をかしげる。「そう、取材でね」「いつ帰るの?」「今夜」「なーんだ。もっとゆっくりしていけばいいのに」と長い脚をいたずらに伸ばす。「もう北海道はずいぶん涼しいね。日向が暖く感じる」と私が言うと、「ナツがようやく行ったから。ああまだそっちには顔を出すかもしれないけど北海道からは去ったよ」と言う。「ナツとツユがどうなったか知りたいんでしょ?」と覗き込むアキの目はいたずらっぽくそれでいて透き通っている。「ナツの部屋に行ったきりで気になってる。あれは気が遠くなりそうな暑い日だった」とあの日を思い返す。うるさいほどの蝉の声、空の色。肌に届く痛い熱。「あれからツユとは別れたそうよ。やっと気持ちが落ち着いたみたい。いつまでも一緒でいることを当たり前にするのが間違ってると。もう世の中は変わってると言ってた。気づくのが遅すぎたって」「じゃあツユはショカと?」「それは知らない。ツユは優柔不断ではっきりしないところがあるからまだグズグズしてんじゃない?私にはそんなの絶対できないけどね」と笑うアキ。この人はいつもこうだ。悩みや不安にとらわれることがなく、決めたことをきちんとやる。過去や未来は考えない。今を大事にする。「だって過ぎたことも先のことも自分じゃどうしようにもならないじゃない」とケラケラカラカラ。澄み渡る冷たい空気が私の頬を撫でていく。

 


「もうしばらくこっちにはこないの?」と札幌駅を肩を並べて歩く。「実は3週間後に仕事で札幌に3泊することになってるから、そのとき会おうよ。美味しいものでも食べてゆっくり飲みながらさ」と私が言うと、笑いながら少し顔を歪めるアキ。「3週間後か。そうね。会えるといいね。でも微妙。その頃の私はもうここにはいないかもしれない」。そっか。北海道の秋は短い。「3週間後なら東北?北関東?まあそのあたりにはいるかな。ま、会えたら会おうよ。連絡して。じゃあね」とアキは走り出した。彼女の人生はナツの強さで年々短くなっていることを改めて思う。アキが出来ることは移りゆきながら今を生きるしかないのだ。

 

 

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