十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

私が怒った出来事。

昨年末にメガネを新調した。ローガンが進んで手持ちのメガネでは仕事に支障をきたすようになったため、大手メガネチェーン店で少しクラシックなテイストのを選んだ。繊細で愛らしいデザインを私は気に入った。仕事のときはこういう柔らかさがある方がいいと大事に使った。

 

先日、このメガネをかけて仕事をしていたら、突然左の耳かけの軸がポキンと折れた。何もしてない。電話中である。しかし困った。すぐに直さなければ仕事に支障をきたす。その日の昼休み、会社から歩いて10分ほどにある店に持っていき、修理を依頼した。チェーン店というのはこういうときに便利である。買った店にまでわざわざ行かなくていい。店長らしき男性は他店の在庫状況を確認した上で「部品が別の店にあるのでそれで修理できます。1週間後には仕上がります」と言う。「それまでに仕上がったら電話もらえるの?」「いえ、お近くに来られることかあればお立ち寄りください。1日前くらいなら出来ているかもしれません」と男性スタッフ。何言ってんだこの人。よくわからんが、ともかくメガネを預けて店を出た。


結局、仕上がり日の3月6日に私は引き取りに行けなかった。仕事が立て込んでいたり昼休みにも予定が入って往復20分の時間が取れなかったのだ。しかし9日の金曜日から出張なのでよく見えるメガネを持っていった方がいい。「取りに行かねば」と前日の8日の昼休みに店に行くことにした。あいにくの雨だが仕方ない。店に着くと相変わらず外国人観光客がほとんどを占め、中国人スタッフが対応している。その1人に声をかけ「引き取りです」と受付の用紙を渡した。

 

20分は待たされた。なぜ5分で済むことにこんなに時間がかかるのか。予定外の時間にイライラが募る。もう12時30分をまわっている。このままでは昼ごはんも難しいとしかめっ面で時計を睨んでいたら、日本人女性の店員が近づいて私の前でひざまずく。「お客さま大変申し訳ありません。実はこちらのメガネの部品が調達できず修理が出来ておりません」は?何?メガネ直ってないってこと?「はい、そうでございます」直るって聞いたけど?「他店にあった同じ商品を確保する情報共有ができておらず、もう部品が無い状況でございます。大変申し訳ありません」


ちょっと待って。いろいろおかしい。「あのさ、それなんで電話一本してもらえへんかったん。せめて電話で知らせるべきなんちゃうん。すんごい困るねんけど」「はい、そちらも失念しておりまして大変申し訳ございません」。私の時間を返せと言いたかった。ここに来てるのも遊びに来てる客やないことはわかるやろう。時間やりくりしてなんとかやっとるねん。怒りに震えて怒りを抑えて「ほんでどうしたらええん」と聞くと同じ値段のフレームを新しく決めてくれたら同じレンズで作ると言う。1週間後に出来上がると言う。「今ここで決めろって?」「はい。今日が難しければ他の日でも結構です。私が責任を持って対応させていただきますので」「時間ないねん。ほんま困る」午後からの仕事のことを思い出し、今からフレームを探す時間が取れるか考える。なんとかなるか。てかまたここに来るなんてもうイヤや。今決めて仕上がりは送ってもらうのが一番手っ取り早いと腹を決める。「五千円のフレームっていうたな。どれなん」と席を立った。

 

前のときと違って、無理矢理選ばされていること、時間がないから早く決めたいという気持ちのため、メガネを選ぶことに本気になれない。というかこの状況にまったく納得できてない。5000円のフレームはどれも私が欲しいものではなく、結局金額を無視して選んだらプラス3240円払うことになった。「5000円を超える商品の場合はご負担いただきます」と聞いてたのでもちろん了承済みであるが、なんかおかしくないかこれ。あかん、腹立つ、もやもやする。なんでこんなに私は怒っているのか整理をせねば。

 

損得で物事を考えてはいけないと常々思っているが、今回の場合、損失は私にしかない。気に入っていたメガネが保証期間に壊れ、修理を依頼したら店の連絡ミスで出来なくなり、代わりのメガネを結局3240円払って取り替えた。お気に入りのメガネを失い、お金も使い、手に入れたのは時間のない中なんとか選んだメガネのみである。さらにこの件で店で1時間という時間を費やした。この私の時間も大きな損失である。そして店は何を損失したのか。正直、新しいメガネを送ってもらう送料だけである。あとは「申し訳ありません」を繰り返してやり過ごしただけ。謝って謝ってとにかく謝って私が帰ってしまえばこのややこしい一件は終わり。そんなもんなんか、商売って。

 

もしちゃんと修理が出来ない旨を早々に電話してくれてたら、もし新調したメガネの差額を店がもって謝罪の気持ちを表してくれてたら、こんなに私は怒ったであろうか。少しは「仕方ない」と思えたんやないやろか。あの女性スタッフに怒ってるんやないで。あのチェーン店に怒ってるんやで。きちんと客の気持ちに立って商売してるんか。あんたらの便利で効率的なビジネスは全部あんたら都合やないか。そんなことしかでけへんねんやったら、売りっぱなしの外国人観光客専用の店にしてしまえ。立派なアプリも、どこででも見かける店舗もどれもわたしにはとても薄っぺらくむなしく映る。

 

 

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