十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

いっぷく、いかが?

まあ、一杯。

以前、とーちゃんとキタの百貨店に行ったときに、一保堂茶舗の茶道セットを見つけた。お茶碗、お茶杓茶筅、抹茶、布巾が小さな箱にセットになって4,000円ほど。「とーちゃん、こ、これ欲しい!」とせがんだが、「もう今日は荷物いっぱいやからやめときぃ」と言われしぶしぶ断念。「絶対今度また買うてや〜」と念押ししてその日はあきらめた。それからかなりの日数が経ち、この火曜日、家に帰ると一保堂の紙袋が置いてある。「これ何?あ、もしや〜」と期待を込めて包みを開けると、やっぱり。あの茶道セット。「あんた、欲しい欲しい言うてたやんか」とアイロンをかけながら、ちょっととーちゃんは照れている。
このセット、正確にはスターターキットで「はじめの一歩」というタイトルが付けられている。茶道の経験のない人でも、とりあえずはわかるように解説書も付いているのだが、実は私はこう見えて茶道の経験者。とは言っても実のところ、「お茶とお花くらやっときなさい!!」と無理やりお母さんに勧められてはじめたのだが、そのときから華道よりお茶の方が好きやった。お茶のお手前のお稽古をしてたら、足がしびれて水の入ったケンスイをひっくり返したこともあるし、物覚えが悪いので先生に「よ、よろしいんでっせ」と静かにたしなめられたことも何度もある。それでも、一つ一つの所作に意味のある茶道はおもしろかった。あの頃は何も考えてなかったけど、今にして思えば、襖の開け方一つ、畳の部屋の歩き方一つわかっているのは結構ありがたい。
で、昨日の夜に、我が家ではじめて一服たてた。とーちゃんは「家でこうしてお抹茶が飲めるっていいよね〜」と喜んでくれている。茶杓に一杯半の抹茶を入れて、やかんから少し冷ましたお湯を注いでしゃかしゃかしゃかしゃか。20年ほどのブランクがあるので上手にたてられへんかったけど、それでもおいしかった。ふ〜っと今までこの家でついたことのないため息をついた。
この茶道セットがきっかけで、もしかしたら茶碗をいろいろ集めるかもしれへん。家に来た人にたててあげて、その人が自分もやりたいと思うかもしれへん。ものごとが広がるきっかけは、きっとこんな小さいことから転がっていくんやなあ、と改めて思ったわけでした。しかし、まあ、とーちゃんありがとう。