十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

モーニングセットの食べ方。

先日、いつものようにとーちゃんと晩ご飯を食べていたら、なぜか喫茶店の話になった。こじゃれたカフェじゃなくて喫茶店ね。おばちゃんがやってて、親父たちが集まっていて、タバコとコーヒーのニオイが入り交じる、どの街にもあるような喫茶店がいいねえと盛り上がる。「やっぱり喫茶店の醍醐味はモーニングセットだろ」「せやせや、おいしいねんなあ、モーニング」業務用のちょっと塩辛いバターがべっとりと塗られた厚切りトースト、小さなサラダ、ゆで卵が揃えば完璧っ!で、話題はこのモーニングをどう食べるかという内容に展開していった。





「ボクはなあ、まずコーヒーにちょっと口を付けるねんけど、実は猫舌やから飲んではないねん」ふむ。まあわからんでもない。じゃあ最初に何に手をつける?私はサラダかな〜。「ボクが次にやるのは、ゆで卵の殻をむいてな、置いとく」へ?卵食べへんの?むいたのに?「うん。で、次にパンに行くねんけど、ボクはまずパンの耳だけ全部先に食べるねん」は〜?親父としてそれおかしくないか?手にバターも付くし…。「ボクはおいしいとこだけまとめて食べたいタイプなんよっ」さすが一人っ子、いらんもんはいらんの精神らしい。





パンの耳を食べ終え、サラダ、パン(中のみ)、ゆで卵が残った状態に仕上げ、とーちゃんは「ここでスタートや。まずパン、コーヒー、サラダでローションするわけ」とうれしそうに話す。その姿を想像すると耳のないパンがおかしいような気がするが、まあ目をつぶろう。で、最後に残るのはつるりと白く輝くゆで卵。「ここからが大事なんよ。コーヒーも飲み終えたあとに、一口でゆで卵を口に入れて、席を立つ」





何ですと?何のために?意味がわからん。口にぱくりとゆで卵をほおばり、すくっと席を立ち、口をもごもごさせながら「ごっつぉさん」と喫茶店のママに目配せをし、そのまま店を出るという一部始終を目の前で再演してくれる親父。味わおうよゆで卵。なんでそんなに急いで店を出なならん?しかし見ていて気がついた。親父は何となく松田優作を真似ている。ちょっと上背をかがめてママに目配せしているあたりは、どことなく優作風。なんかイキっとんで、街の喫茶店で。





でもさ、何で一口で食べきらなならんの?と聞くと「アホやなあ、かーちゃんは。ゆで卵を何回かに分けて食べたら、黄身がぽろぽろこぼれてスーツが汚れるやろ〜?」だって。理由が小さすぎる。でもさ、むせへんか?口の中で黄身がごそごそするやろう?「せやねん、だから店を出てからぶはっとなること、たまにあるねん」やって。もしあなたが街の喫茶店で、卵を口にいれたまま少し猫背気味にお勘定している親父を見かけたら、街の交差点で卵を出しながらぶはっとむせている親父を見かけたら、それは間違いなくとーちゃんです。