十杯機嫌 〜飲んで飲んで、たまに犬〜

酒好きふたりと酒嫌いな犬。

秋の高知旅.2安和へ。

秋の高知旅の初日、高知市内から高速で西へ向かって約1時間で須崎に着いた私たちはとにかく腹ペコで「お昼をどこで食べようか」と話していました。須崎といえば鍋焼きラーメンで有名ですが、猫舌の親父には難易度が高くてムリ。「琵琶湖やってへんかな?」「琵琶湖閉めてるって話やったような」「きっとやってるよかーちゃん。信じて向かってみよう」と言うのでさらに西へ。琵琶湖とは須崎市街地からうちの田舎の安和に向かう間にあるドライブインで、定食やラーメンやオムライスもあるパラダイス。行ってみると開いていて「よっしゃ!」とウキウキで入りました。

 

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親父はラーメンを、私は悩みに悩んでエビフライ定食をチョイス。小鉢も味噌汁もちゃんと作られていて何よりタルタルソースが手作りなのがうれしい。いわゆる中華そばの親父好みのラーメンにも具がたくさんで良心があふれている。「琵琶湖を信じてよかったな。久しぶりに来れてよかった」と完食しました。

 

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ここからターンの安和の家はあっという間です。クルマを停めて家に向かうと「その時間はいてへんかもわからん」と聞いていたターンの妹ハルちゃんが出迎えてくれる。おまけにサーくんもいてる。サーくんとはうちのお母さんのいとこにあたり、サーくんといいつつお年はもう60代。予想外に2人で出迎えてもらい、「まあ上がり」とお家に入ってまずは神棚に向かいます。

 

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きれいに飾られた神棚には笑うターンの遺影が添えられ、2人で手を合わせる。この家で20年近く毎年毎年お世話になったことの感謝が湧いてくる。ハルちゃんに聞くと最後に会えたのは亡くなる6日前。食事を自分でとれて、しっかり話せる状態やったけれど医者に「今度発作が起きたら間に合わなくてもう会えなくなるから今のうちに会っておきなさい」と言われたのだそう。その先生の言葉通り、ターンは6日後に発作を起こして亡くなった。ハルちゃんは「ほとんど苦しまんとあっという間に逝ってしもた。先生の言う通り間に合わんかったきね。せやけどこれで良かったんよ」と言う。そうやね。私もそう思う。90を過ぎてボケることもなく、最高の逝き方や。きちんと生きてきたターンへの神様の贈りものなんやなきっと。

 

50日を済ませて納骨をしたばかりというので(神式は49日じゃなくて50日なんやって。この1日の差はナニ?)サーくんが墓まで連れて行ってくれるという。クルマで向かってターンにもターンのご先祖さまにもありがとうと手を合わせる。空が青くて風が気持ちいい。これからはここにも挨拶に来るね。

 

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ターン家に戻ってハルちゃんとサーくんとしばらくお話しすることに。ハルちゃんはターンよりもはるかにきれい好きの働き者で見た目は小さくてガリガリなんやけどやっぱり姉妹で顔はターンに似ている。近所に住んでるのに今はターンが寂しがるからとここに寝泊まりして片付けを進めているよう。どこもかしこもさっぱり整っていて、いつも一緒に飲んで食べて話していた台所のテーブルに気持ちのいい秋風が入り込んでくる。「ハルちゃんしっかり食べてるかあ?そんなにガリガリで」と言うと「煮物食べてるで、肉はそんなに好きやないき」「お酒は飲むの?」「飲まん飲まん。せやけどたまあに日本酒は飲むかね。ゆっくり飲めるしね」と話しているとターンと話してるような気持ちになってくる。ハルちゃんがいれてくれたインスタントコーヒーがやけに美味しい。「サーくんはどないよ。ちゃんと治療してるの?」と聞いてみる。サーくんは肺がんになり最近再発が認められたらしく抗がん剤治療に通っている。「もうさっぱりや。ちょっと歩くのも息が上がってしもうてかなん。メシも旨うないし」と嘆く。安和地域で生息する虎班竹の仕事をずっとしてきて、ムカデが出てもティッシュで簡単に処理してくれる頼もしいサーくん。何があってもここにサーくんがいてくれるから安心やねんから弱気になってもろたら困る。「ちゃんと先生の言うこときいて治療してよ。また元気なサーくんに会いたいねんから」と伝えて安和を出ました。

 

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夜、ホテル近くの居酒屋で土佐鶴を飲んだらやたらに美味しくてDNAが震えているような感覚に。私の中の半分を占める高知の遺伝子が喜び迎えてくれているように感じました。その後ググって探した「BARコリンズ」へ。ジントニックの後にマティーニなんかを飲んでいたら、ほろほろと泣けてきた。ターンのいないあの家で喜んで迎えてくれたハルちゃん。病気とたたかいながらもたくさん話してくれたサーくん。何もかも変わっていく寂しさと、この日このときに私たちは迎えてもらえたんやという確かな実感がこっちゃになって押し寄せる。あそこできっとターンは「よう遠いところから来てくれたね」とニコニコしながらいつものようにいたに違いない。「とーちゃん、来てよかったな。私ら迎えてもらえてるな」「ほんまやな」と言いながら、この日の天気のように晴れ晴れとした気持ちになっていました。

 

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